カテゴリー「サイエンス」の6件の記事

2017年9月17日 (日)

光に質量を与えたい -3-

超伝導体内で光が質量を獲得することについて、あれこれ検索していたところ
Anderson-Higgs-Kibble 機構の検証と超伝導 Interlayer Coupling 機構の解明
が見つかり、たいへん参考になりました。上記文献は

超伝導現象がゲ-ジ場の対称性が自発的に破れることによって発現し、それに伴ってゴ-ルドスト-ンモ-ド (Goldstone mode) が発生するが、これを実験的に観測しようとする
ことについての報告書ですが、研究の背景と動機について書かれた部分に、光が質量を獲得する仕組みが解説されています。それを参考に質量の獲得についてまとめてみます。

ラグランジアンから始めるのが理論的には美しい(と思う)のですが、ラグランジアンというものは訳が分からず、いきなり定義するのは困難なものなので、エネルギー(ハミルトニアン)から始めることにします。

クーパー対 \(\psi(\boldsymbol{q})\) が電磁相互作用している系のハミルトニアン \(H\) (およびハミルトニアン密度 \(\mathscr{H}\))は次のようになります。 \[\begin{align} H =& \int \mathscr{H}d\boldsymbol{q}\\ \mathscr{H} =&\ \psi^\dagger(q)\frac{1}{2m}\left(\boldsymbol{p}-\frac{e}{c}\boldsymbol{A}(\boldsymbol{q})\right)^2\psi(\boldsymbol{q})\\ &+ V(\psi^\dagger(\boldsymbol{q})\psi(\boldsymbol{q})) + \frac{1}{8\pi}(\boldsymbol{E}^2+\boldsymbol{B}^2) \tag{1} \end{align}\] 第1項から判るように、クーパー対は非相対論的に扱っています。超伝導体内部では静電場は存在しないので \[\begin{align} A_0 &= 0\\ \boldsymbol{E} &= -\frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t} \tag{2} \end{align}\] と取ることが出来ます。また、相互作用項(注1) \(V(\psi^\dagger(\boldsymbol{q})\psi(\boldsymbol{q}))\) は今の問題には関与しないので省略できます。

(注1):今回参考にしている文献では \(V(\psi^\dagger(\boldsymbol{q})\psi(\boldsymbol{q}))\) を相互作用項と呼んでいるのですが、式 (1) で相互作用は第1項の \(\psi\) と \(\boldsymbol{A}\) の積から成る部分ではないかと思うのですが・・・。

クーパー対は基底状態からの励起として南部・ゴールドストーンモードの励起が有るとして、 \[ \psi(\boldsymbol{q}) = \sqrt{n_0}e^{i\theta(\boldsymbol{q})} \tag{3} \] と置くとハミルトニアン密度は \[ \mathscr{H} = \frac{\hbar^2 n_0}{2m}\left(\operatorname{grad}\theta-\frac{e}{c\hbar}\boldsymbol{A}\right)^2 + \frac{1}{8\pi}(\boldsymbol{E}^2+\boldsymbol{B}^2) \] となります。 \(\boldsymbol{B} = \operatorname{rot}\boldsymbol{A}\), \(\operatorname{rot}\operatorname{grad}\theta = 0\) なので、 \(\operatorname{grad}\theta - (e/c\hbar)\boldsymbol{A} \longrightarrow \boldsymbol{A}'\) と置き換えてもハミルトニアン密度は変わりません。その \(\boldsymbol{A}'\) を改めて \(\boldsymbol{A}\) と置くとハミルトニアン密度は \[ \mathscr{H} = \frac{n_0e^2}{2mc^2}\boldsymbol{A}^2 + \frac{1}{8\pi}(\boldsymbol{E}^2 + \boldsymbol{B}^2) \tag{4} \] となります。

以下、簡単のため微分を次のように表記することにします。 \[ A_{\mu,\nu} \equiv \frac{\partial A_\mu}{\partial x_\nu} \] また、添字が上か下かということについては区別しないことにします。

さて、このハミルトニアン密度からラグランジアン密度 \(\mathscr{L}\) を求めます。両者には \[ \mathscr{L} = \pi_i A_{i,0} - \mathscr{H} \tag{5} \] の関係が有ります。ここに \(\pi\) は運動量密度です。ハミルトン形式では運動量(密度)は先に決めておくものなのですが、式 (4) でどれが運動量密度なのかよく判りません。これでは式 (5) が計算できません。上記文献ではラグランジアン密度は \[ \mathscr{L} = -\frac{n_0e^2}{2mc^2}\boldsymbol{A}^2 + \frac{1}{8\pi}(\boldsymbol{E}^2 - \boldsymbol{B}^2) \tag{6} \] と記されているので、取り敢えず式 (6) から運動量密度を計算してみました(式 (2) を考慮)。 \[\begin{align} \pi_i &= \frac{\partial\mathscr{L}}{\partial A_{i,0}}\\ &= \frac{1}{4\pi c^2}A_{i,0} \end{align}\] これを使って式 (5) を計算すると式 (6) になることは確認できました。そこで、ラグランジュ方程式 \[ \frac{\partial}{\partial x_j}\frac{\partial\mathscr{L}}{\partial A_{i,j}} - \frac{\partial\mathscr{L}}{\partial A_i} = 0 \] を計算すると(\(\boldsymbol{B}=\operatorname{rot}\boldsymbol{A}\) を考慮) \[ \left(\Box + \frac{4\pi ne^2}{mc^2}\right)\boldsymbol{A} = 0 \tag{7} \] が得られます(\(\Box\) の符号は (+,---))。この式は光 \(\boldsymbol{A}\) が質量 \(4\pi ne^2/(mc^2)\) を持つことを表しています。なお、式 (7) の算出に当たり、クーロン・ゲージ \(\operatorname{div}\boldsymbol{A}=0\) を用いました。

今回の過程を見ると、クーパー対 \(\psi(\boldsymbol{q})\) を式 (3) と置いたことで式 (6) の第1項が得られ、それが式 (7) の質量項になっていることが解ります。光の質量獲得のカラクリが少し理解できた気になりました。

ところで、電磁気というやつは単位系に幾つか流儀が有って、その確認に手間取りました。電磁気の単位系について便利なページが有ったのでリンクを張っておきます。
電磁気学の種々の単位系

2017年8月19日 (土)

魚の模様の出来る仕組み

魚の模様の出来る仕組みについて、何年か前にサイエンス Zero で見たことがあったのですが、その仕組みがどうだったか忘れていました。録画していたわけでもないので、再度確認出来ずにいたのですが、先日、その番組を見ることが出来ました。今度は忘れないように、ここにメモしておきます。

タテジマキンチャクダイの写真

その番組では、タテジマキンチャクダイの縞模様について説明が有りました。タテジマキンチャクダイは、体が成長すると縞模様の本数が増えて縞の間隔が一定に保たれます。その仕組みは、色素の活性化因子と抑制因子によって説明出来ます。


まず、縞模様の形成は次のようになっています。

  1. 細胞は色素の活性化因子を生成する。
  2. その活性化因子は細胞に更に活性化因子を生成するよう働きかける。
  3. 活性化因子は細胞に抑制因子も生成するよう働きかける。(活性化因子が無いと抑制因子は生成されない)
  4. 2 種類の因子は周りの細胞に拡散する。
  5. その拡散速度は抑制因子の方が速い。
  6. 着色された細胞から少し離れた所は抑制因子の方が多くなり、着色されない。

このようにして出来た縞模様は、身体の成長により間隔が広がります。すると、着色された細胞からある程度離れた個所には抑制因子が届かず、その箇所の細胞が着色されます。こうして、身体が成長しても縞の間隔が一定に保たれるという訳です。

A B C 活性化因子 抑制因子 活性化因子 抑制因子

図を用いて説明します。細胞 A と C は着色されているとします。それらから発生した抑制因子が活性化因子より早く色素細胞 B に到達すると B は着色されません。これにより、縞が形成されます。そして、 A と C の間隔が広がり、抑制因子が B に到達しなくなると、 B の生成する活性化因子により B は着色され、その結果、縞の間隔が一定に保たれることになります。

実は、2 種類の因子で模様を形成する仕組みは、チューリングによって方程式が与えられています。それが次式です。
\[ \left\{ \begin{aligned} \frac{dX_r}{dt}&=f(X_r,Y_r)+\mu(X_{r+1}-2X_r+X_{r-1})\\ \frac{dY_r}{dt}&=g(X_r,Y_r)+\nu(Y_{r+1}-2Y_r+Y_{r-1}) \end{aligned} \right. \] \(X, Y\) がそれぞれ活性化因子と抑制因子です。添え字 \(r\) は細胞を示す番号です。 \(f, g\) などを具体的に決めて計算すると、縞模様の形成の様子をシミュレートすることが出来ます。

ところで、上記方程式は 1 次元についてしか言っていないように思うのですが、これで 2 次元もカバー出来ているのが不思議です。

番組では、縞模様の形成の他にも、肺の形成や細胞性粘菌の集団の振る舞いなどが紹介されていましたが、ここでは省略します。

魚の模様の出来る仕組みについて、目がテンでも放送されたことが有るようです。 目がテン!ライブラリー 生き物(模様)の科学 に解説が掲載されています。

2017年2月19日 (日)

光に質量を与えたい -2-

超伝導体内で光が質量を獲得する仕組みを知りたくて、インターネット上の資料を幾つか当たってみたのですが、未だ納得できるレベルに至っていません。取り敢えず、解った所をまとめておきます。

光の質量の獲得は秩序変数 \(\Delta\) に対する現象論(ギンツブルグ・ランダウ理論)として記述できます。秩序変数とは相転移を特徴付ける量で、考察の対象に応じて選択されます(秩序変数の超伝導相転移を参照)。この秩序変数を用いて、電磁場が無い時のラグランジアン密度は臨界点近傍で \[ \mathscr{L}=\Delta^*i\partial_t\Delta-\frac{1}{2m}\nabla\Delta^*\cdot\nabla\Delta +b|\Delta|^2+c|\Delta|^4 \tag{1} \] と表されます。ここに \(m\) はクーパー対の質量です。

(1) 式の微分を次のような共変微分に置き換えることで電磁場を導入します。 \[ \begin{eqnarray} \nabla \rightarrow \boldsymbol{D} = \nabla - i\tilde{e}\boldsymbol{A} \tag{2}\\ \partial_t \rightarrow D_t = \partial_t - i\tilde{e}\phi \tag{3} \end{eqnarray} \] すなわち、ラグランジアン密度は (4) 式になります。 \[ \begin{align} \mathscr{L} =& \Delta^*iD_t\Delta - \frac{1}{2m}\boldsymbol{D}\Delta^*\cdot\boldsymbol{D}\Delta\\ & + b|\Delta|^2 + c|\Delta|^4 + \mathscr{L}_\mathrm{em} \tag{4} \end{align} \] ここに \(\mathscr{L}_\mathrm{em}\) は電磁場のラグランジアン密度です。

\(\Delta = |\Delta|e^{i\theta}\) とおき、簡単のため \(|\Delta|\) が時間依存しないとします。そして \[ \begin{eqnarray} \tilde{\boldsymbol{A}} = \boldsymbol{A} - \frac{\nabla\theta}{\tilde{e}} \tag{5}\\ \tilde{\phi} = \phi - \frac{\partial_t\theta}{\tilde{e}} \tag{6} \end{eqnarray} \] を用いると、ラグランジアン密度は \[ \mathscr{L} = \tilde{e}|\Delta|^2\tilde{\phi} - \frac{\tilde{e}^2|\Delta|^2}{2m}\tilde{\boldsymbol{A}}^2 + \mathscr{L}_\mathrm{em} \tag{7} \] となります。このラグランジアン密度より \(\tilde{\boldsymbol{A}}\) の運動方程式は、 \(M=(\tilde{e}^2|\Delta|^2/(2m))^{1/2}\) とおいて、 \[ (\Box + M^2)\tilde{\boldsymbol{A}} = 0 \tag{8} \] となります。ただし、ローレンツゲージ \(\partial_\mu\tilde{A}^\mu = 0\) を仮定しました。 (8) 式は光子 \(\tilde{A}\) が質量 \(M\) を持っていることを表しています。

(1) 式から出発して光子が質量を獲得することが解った訳ですが、超伝導体のラグランジアン密度が (1) 式になることが理解できていません。 BCS の平均場理論によるとハミルトニアン \(H_\mathrm{mf}\) は \[ \begin{align} H_\mathrm{mf} =& -\mu c_i^\dagger c_i + c_i^\dagger t_{ij}c_j\\ & + \frac{1}{2}\langle c_i^\dagger c_j^\dagger\rangle V_{ijkl}c_k c_l + \frac{1}{2}c_i^\dagger c_j^\dagger V_{ijkl}\langle c_k c_l\rangle\\ & - \frac{1}{2}\langle c_i^\dagger c_j^\dagger\rangle V_{ijkl}\langle c_k c_l\rangle \tag{9} \end{align} \] で、 \(\Delta_{ij} = V_{ijkl}\langle c_k c_l\rangle\) が秩序変数になるのですが、これからラグランジアン密度 (1) 式の導き方が判りません。一般的にラグランジアン \(L\) とハミルトニアン \(H\) の間には \[ L = p\dot{q} - H \tag{10} \] の関係がありますが、これに (9) 式を適用するにはどうしたら良いのでしょうか。 (1) 式の質量 \(m\) は (9) 式ではどこに隠れているのでしょうか。

2016年12月 4日 (日)

光はとっくに質量を獲得していた

近接場光がきっかけで光が質量を獲得することに興味を持ち、光が質量を持つ模型という記事を見つけたことを、以前、当ブログの光に質量を与えたいで書きましたが、この「光が質量を持つ模型」よりもっと前から光は質量を獲得していたようです。その現象は超伝導体内部で発生しているそうです。超伝導体内部には光(電場も磁場も)は侵入できず、それは超伝導体内部で光が質量を獲得している表れであるということです。下記の記事に説明が有ります(PDF ファイル)。ただ、今ひとつ解った気になれませんけど。

質量の起源
対称性の自発的破れとヒッグス機構
南部理論と物性物理学

また、下記

ノート置き場

より「超伝導の基礎に関するノート」をクリックすると PDF 「超伝導の基礎に関するノート」がダウンロードされます。

超伝導体内部で光が質量を獲得する機構を、いづれ理解できたらまとめたいと思っています。

2016年3月13日 (日)

光に質量を与えたい

近接場光がきっかけで光が質量を獲得するということについて興味を持ち、色々検索したところ、 光が質量を持つ模型 という記事が見つかりました。ただし、近接場光についての言及は有りません。それによると、光が質量を獲得するあらすじは次のようになっています。

まず、グラショウ・ワインバーグ・サラム模型のラグランジアン密度は \[ \mathcal{L}_{GWS} = \mathcal{L}_{gauge} + \mathcal{L}_{Higgs} + \mathcal{L}_{lepton} + \mathcal{L}_{l-Higgs} \] で表されます。ここに

  • \(\mathcal{L}_{gauge}\) : ゲージ場に依る部分
  • \(\mathcal{L}_{Higgs}\) : ヒッグス場に依る部分
  • \(\mathcal{L}_{lepton}\) : レプトンに依る部分
  • \(\mathcal{L}_{l-Higgs}\) : レプトン・ヒッグス相互作用
です。ヒッグス場に依る部分は、 \[ \mathcal{L}_{Higgs} = (D^\mu \Phi)^\dagger D_\mu \Phi - U(\Phi^\dagger \Phi) \] となっています(\(D_\mu\) は共変微分)。ここに \(\Phi\) は2重項ヒッグス場で、 \[ \Phi(x) = \frac{v}{\sqrt 2}\left(\begin{matrix}0\\1\end{matrix}\right) + \phi(x)\\ \langle 0|\phi(x)|0\rangle = 0 \] と展開され、真空が対称性を破っています。ここまでが普通の理論です。

次に、1重項ヒッグス場 \(S(x)\) を導入して光に質量を与えることを考えます。1重項ヒッグス場のラグランジアン密度は \[ \mathcal{L}_S = (D^\mu S)^\ast D_\mu S - U_S(S^\ast S) \] で、全体のラグランジアン密度は \[ \mathcal{L} = \mathcal{L}_{GWS} + \mathcal{L}_S \] となります。極低温(宇宙背景輻射 3K よりも遥かに低い温度)が大域的に実現できれば1重項ヒッグス場は、 \[ S(x) = \frac{u}{\sqrt 2} + s(x)\\ \langle 0|s(x)|0\rangle = 0 \] となる可能性があるそうです。そして、いろいろ計算して、ラグランジアン密度の内、光子の2次の項の係数が \(0\) にならないことより、光が質量を獲得することが言えます。

以上は、宇宙が極めて低い温度になることで光が質量を獲得する可能性を示したものですが、これを、室温中に有る先の尖ったファイバースコープで実現すれば、近接場光の質量を説明できることになるのではないでしょうか。

2016年2月28日 (日)

近接場光

以前、サイエンスZeroか何かで見たと思うのですが、近接場光というものが有るそうです。ファイバースコープの先端を細く尖らせ、もう一方の端から光を入射させると、その光は尖らせた先端にまとわり付いたように留まったままになります。それが近接場光です。近接場光は先端から無限遠に飛んで行くことはありません(つまり、その光を直接見ることは出来ない)。この近接場光は顕微鏡(STMのようなもの)などへ応用されているようです。

ファイバースコープ この光は 直接見えるわけではない

ところで、ゲージ場のひとつである光は、真空中を無限遠まで移動することが出来ます。これは光に質量が無いことと同値です。それに対して、同じゲージ場でもウィークボソンは質量を持ち、到達距離は有限です(\(10^{-18}m\))。本来、ウィークボソンは質量0なのですが、自発的対称性の破れにより質量を獲得しているのです。

先に揚げた近接場光は、本来無限遠まで到達するはずの光が局所領域に束縛されている訳ですが、これはまるで光が質量を持ったようなものです。

光が質量を持つ。このことに興味を持ったので、近接場光について検索してみたのですが、詳しいことは分かりませんでした。(ただ、有効質量 \(m = \hbar/c \cdot \lambda_c\) をもつ仮想光子のトンネリングというアイデアが用いられているようです。)もし、先端を尖らせたファイバースコープが真空とは違ったポテンシャルになっていて、そのため対称性が破れて光が質量を獲得するというカラクリなら面白いのですが。